幻想的な雪景色の中で繰り広げられた、神々と人間の交差 「第60回 なまはげ柴灯まつり」レポート
2023年2月10日(金)から12日(日)にかけて、秋田県男鹿市北浦の真山(しんざん)神社にて「第60回 なまはげ柴灯(せど)まつり」が開催されました。会場を変えながらも、これまで一回も休むことなく続けられてきた「なまはげ柴灯まつり」。今年は60年という節目の年を迎えるだけでなく、コロナ禍で一部制限されていたプログラムが復活するなど、特別感のある「なまはげ柴灯まつり」となっています。
「男鹿のナマハゲ」を世界に知らしめ、多くの人々を魅了してきたこのお祭り、果たして今年はどのような盛り上がりを見せたのか。吹雪の一夜となった、10日の模様をレポートします。
サテライト会場の「なまはげの里オガーレ」で、一足先にお祭り気分を堪能
夜の18時から開催される、「なまはげ柴灯まつり」。開催まで少し時間があるので、JR男鹿駅に隣接する「道の駅おが(なまはげの里オガーレ)」に立ち寄ってみました。
海の幸から山の幸まで、男鹿のさまざまな物産が集うこちらの施設ですが、「なまはげ柴灯まつり」の期間中は、駅前の広場「オガアイランドパーク ハブアゴー」とともに、サテライト会場として利用され、男鹿のグルメ屋台が並んだり、なまはげ太鼓の演奏が行われたりと、お祭り気分に満ちた空間へと変わります。
男鹿市を拠点とするクラフトサケ醸造所「稲とアガベ」の「クラフトサケ」なるお酒も販売されていました。「クラフトサケ」とは、お店の説明によると、日本酒の製造技術をベースとしたお酒、あるいはそこに副原料を入れることで新しい味わいを目指した新ジャンルのお酒、とのこと。「男鹿の風土」をそのまま瓶に詰め込んだようなお酒なんだとか。
屋台グルメを眺めていると、会場に複数のなまはげたちが乱入! 大迫力の「なまはげ太鼓演奏」が始まりました。
個人的には、なまはげというと「わるい子はいねが〜」と、のそのそ歩きながらやってくるイメージがあったので、目の前で繰り広げられる、なまはげたちの機敏で激しい動きにビックリ! バチさばきにも気迫がこもっていて、お客さん全員が圧倒されていました。夜のなまはげ太鼓にも期待が高まります。
日も暮れてきたので道の駅を離れて「なまはげ柴灯まつり」の会場でもある、真山神社へと向かいます。国定公園に指定されるほど豊かな自然が広がる男鹿半島の中腹は、事前の「雪予報」のとおり、少しずつあたりが吹雪いてきて、まるで異世界に飲まれていくような、そんな不思議な気分になってきます。
息もつかせぬパフォーマンスの連続!八面六臂のなまはげたち
受付を通って、いざお祭り会場へ!社殿へと続く石段の入り口には美しくライトアップされた仁王門が構え、お祭り会場へと誘います。
石段を上り切ると、かがり火と60周年を記念した記念撮影用大型フォトパネルがお出迎え。これまで積み重ねてきた歴史に対する誇りと、60回目の「なまはげ柴灯まつり」に対する意気込みのようなものを感じることができました。
お祭りはまず「鎮釜祭(ちんかまさい)」「湯の舞(ゆのまい)」と呼ばれる神事から始まります。厳かに執り行われる儀式と、それを静かに見守る観衆たち。神聖ななまはげたちを迎える場を、こうやって整えていっているのでしょうか。
続いて、なまはげに扮する若者たちが、参道入口の石段にて神(しん)の入った面を授かり身につける「なまはげ入魂」の儀式が行われます。
面を授かり、なまはげとなった若者たちが、取り憑かれたように「うぉ〜、うぉ〜」と雄叫びをあげ、山へと帰っていきます。昔から伝わる神話や民話をこの目に目撃しているかのような、感動を覚えるシーンです。
「なまはげ入魂」の後は、大晦日に行われる民俗行事「男鹿のナマハゲ」の再現が、神楽殿で行われます。
なまはげと家の主人との問答はユーモアにあふれています。風貌はおそろしいですが、そのやりとりからは、地域の人々を案じるなまはげの優しさが垣間見えました。
お祭り会場の中央に焚かれた「柴灯火」の前で、雪山から下山してきた2体のなまはげによる「なまはげ踊り」が行われます。
昭和36年、秋田出身の現代舞踏家・石井漠(いしいばく)氏が振り付け、息子の作曲家・石井歓(いしいかん)氏が曲をつけたというこの踊り。荒々しいなまはげの躍動を、モダンなセンスを感じさせる舞いと音楽で包み込んだ、オリジナリティーあふれる演目となっています。独特の緊張感と気迫のこもった演舞に引き込まれていきます。
お祭りは、クライマックスに向けてヒートアップしていきます。神楽殿では「なまはげ太鼓」の演奏が始まりました。
鬼気迫るなまはげの表情。大地を揺るがすかのような力強いバチさばき。美しくライトアップされた中での来訪神による組み太鼓という、まさに唯一無二のステージが展開されます。
大迫力の「なまはげ太鼓」が終わると、人々の目が雪山の上に注がれます。現れたのは松明をかざした15体のなまはげたち。「なまはげ入魂」の後に山に入っていったなまはげたちが、再び里に戻ってきます。
雪の斜面を、列をなして降りてくるなまはげたち。彼らの目的は、神聖な柴灯火によってあぶられた大餅を受け取ること。山に持ち帰られた大餅は山の神様に捧げられます。つまり、なまはげたちは神の使者でもあるのです。
お祭りの会場に降りてきたなまはげたちが、雄叫びをあげながらお客さんの中を行進していきます。なまはげは、稲ワラでできた「ケデ」という衣装をまとっていますが、ケデから落ちたワラは、魔除けになる・縁起が良い・病気をしない・健康になるなどのご利益があると考えられているため、自然に落ちたワラを拾う方も多くいらっしゃいました。
続いて、「献餅(けんぺい)」の儀式に移ります。
柴灯火で焼かれた護摩餅を神官が捧げます。なまはげはそれを受け取ろうとしますが、神力が宿った餅には、なかなか触れることができません。なまはげが次々とやってきますが、餅に触れられず、不思議な力に弾き返されてしまう。先ほどの、威厳に満ちたなまはげの姿とは対照的なコミカルなやりとりに心がゆるみ、思わず笑みが漏れます。
里のなまはげが会場に大集合!不思議な多幸感に満ちたひととき
ついに、最後のプログラム「里のなまはげ乱入」の時間がやってきました。男鹿市内各地の、特色あるなまはげたちが会場に乱入して、お客さんたちと交流します。「うお〜」と威嚇するような声をあげながらも、記念撮影には気軽に応じてくれるなまはげの皆さん。3年ぶりとなるプログラムなだけに、お客さんたちも、なまはげたちも、喜び爆発!という感じです。
顔つきも雰囲気も地域も違うバラエティー豊かななまはげたちが、これまた性別も年齢も国籍もバラバラなお客さんたちと一緒になって、柴灯火を囲みながら楽しい時間を過ごしている。その様子を見ていると、なぜだかじわっと胸の奥が温かくなり、不思議な多幸感に包まれていきます。大げさな言い方になりますが、神様という存在をこれほど身近に感じた体験は、自分の中でも今までなかったような気がします。
なまはげの、さまざまな一面を見ることができた今回の「なまはげ柴灯まつり」。おそろしい一面もあり神々しい一面もあり、そしてちょっと人間くさくて親しみやすい一面も・・・。お祭り全体を通じて「男鹿のナマハゲ」文化をこれまで以上に身近に感じられました。そして何より、なまはげを通じて人々を感動させたい、喜ばせたいという思いをひしひしと感じることができました。
なまはげの魅力を存分に堪能できるこのお祭り。ぜひ、皆さんも来年は足を運んでみてください!
(取材・執筆:株式会社オマツリジャパン/取材日:2023.2.10)